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 北海道初日

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 5月10日。木。曇り。苫小牧。2760/71キロ。

 

 テレビの気象ニュースによると、最低気温−2℃、最高気温14℃だった。松山は、今年は零下は一度も無かったはずだ。毛糸のセーターを着込んで出発する。

 

 北海道の道路は期待に背かない。そのまま飛行場になりそうな車道、自転車専用道路のような歩道。36号線は、津軽海峡を右に見ながら、平坦直線。こんな道路ばかりなら、世界一周だって出来る。室蘭を出たのが7時40分。71キロ走って、苫小牧に着いたのが二時半。内地と、走行可能距離が20キロは違う。

 

 白老町の海岸で、いつものようにコンビニ弁当を拡げた。津軽海峡は、沖に波一つ無い。しかし、遠くうねりが海岸に近づくと、ドンと雷鳴のような響きを立てて、白波が飛び散る。緩傾斜護岸施設の緩やかな40メートルほどの護岸壁の上に防波堤を兼ねた道路がある。そこまで一抱えもある大きな石が上がっている。そんなことをする物好きは居ないはずだから、これは津軽海峡が時化たとき運んだ物だろう。

 

 この時期、北海道は自転車旅行の人達が多いだろうと思ったのだが、これまでは一人も会わなかった。昼食を済ませ暫く走っていたら、一人の20代の若者が自転車の荷を直していた。フレームの錆びたママチャリに、買い物籠。風呂敷包み二つ程の荷物。白のビニール傘。自転車旅行という格好でもないが、買い物スタイルでもない。

 「どこまで行くの?」と尋ねたら「あっち」と前方を指差す。

 「どこから来たの?」と尋ねたら「あっち」と後方を指差す。

 この哲学的な問答をする若者に、「何か困った物は無い?」と尋ねたら、「朝から何も食べていない」と答える。私も今食事が終わったばかりで、食べる物は持っていない。「これで何か食べなよ」と、僅かな気持ちを差し出した。

 彼、千歳へ職を探しに行く所だと言う。

 こんな場面で、私も長話はできない。「君は若い。やる気もあるのだから、必ず職は見つかるよ」と励まして、この痩せたソクラテスと別れた。

 

 ディオゲネス 腹をすかして パン求め

 

 

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