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 逆風満帆

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 5月11日。金。晴れ強風。札幌。2826/66キロ。

 

 苫小牧から千歳は、丘を切り開いた直線道路。長い緩やかなアップダウンが続く。今日はその直線が恨めしい。北西の強風が、北進する私にもろに吹きつける。立ち木の腕くらいの枝が揺れる。耳元でときおり、布を引き裂く音を立てる。バランスを失って転倒が怖いから、ひたすら押す。どうせ乗っても前へ進まない。

 「思えば俺の一生は逆風ばかりだったな」と愚痴も出てくる。「貴方は、自分で逆風を呼び込む」と亡妻も言っていた。

 

 札幌では、10年来のネット棋友阿鬼三角さんが、待っていてくれた。「以棋会友」。この人に会いたくて、北海道まで来たようなものだ。阿鬼三角さん宅では、これも棋友の淀寛さん、風雪千年杉さんが一緒に歓待して下さった。なんでも「行者にんにく」とか言う、北海道特産のわけぎと大蒜の相の子のような野菜が珍しい。奥さんの手料理で、酢味噌でぬた風にして頂いたのだが、少し飲み過ぎた。

 リラ冷えや 鬼三匹と 酒を酌み

 14歳で覚えた碁のお陰で、多くの友を得ることが出来た。しかし私の囲碁人生は少し屈折している。40年の宮仕えは当然仕事が表芸である。ある日酒の席で一人の上司に「お前は碁では名前を聞くが、仕事では聞かんのう」と言われた。彼は私に目を掛けて呉れた数少ない上司である。この親しみを込めた言葉に、私の返事は可愛いくなかった。

 「たかが仕事に、がつがつ出来るか」

 私は今でも、プロの仕事はさりげなくするものだと信じている。以来順風は吹かなかった。

 以来碁も中途半端のまま。死ぬまで一度でいい、全国大会に出てみたい。

 

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